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【ろうどうコラム】闇バイトの現実

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年1月9日更新

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R7.1.9 闇バイトの現実

労働委員会  公益委員  北目 哲郎 

 2月某日未明、青年は、あらかじめ調達していたレンタカーで都内の自宅を出ると、友人一人を拾い、一路いわき市に向かいました。足跡のつきやすい高速道路ではなく、あえて一般道を選択しました。早朝6時過ぎ、青年らは、いわき市内のコンビニエンスストアの駐車場にいました。すると、青年の携帯電話には、グーグルマップと思われる、とある邸宅の航空写真とともに、ある指令が入りました。その指令とは、次のようなものでした。「金のインゴット7個が寝室の床下にある」、「金のインゴットをとってこい」。

 これは、私が刑事弁護を担当した、ある強盗致傷事件の話です。この事件は、いわゆる闇バイトを背景とするものでした。当時、マスメディアでは、「ルフィ」とか「広域強盗事件」といった括りで、見知らぬ指示役のもとに若者たちが集い強盗等の犯罪に加担する類型の事件について報道がなされはじめていました。その最中の事件でもありました。

 「年下の交際相手と遊ぶための、当座の金が欲しかった」と語るその青年は、もともと、「10万円とかだったら、すぐに稼げるよ」という職場の上司の紹介を受けて、今では、秘匿性の高いアプリケーションとして一般的にも認知されるようになった「テレグラム」をインストールすることにしました。すぐに、指示役と思われる見知らぬ人物から、「車を福島に持って行ったら10万円を渡す」といった趣旨の連絡が入りました。青年は、「合法ではない何かを運搬する仕事」くらいの認識は当初からあったようでしたが、特に周囲に相談することもせず、躊躇なくその勧誘に乗ることにしたと言います。

 青年は、自宅から遠く離れたいわき市までたどり着いたところで、どうやら、指示された任務というのは「福島に車を持っていく」などという単純なものではないことを認識しました。しかし、同時に、ここまで来たら引き返せないとの思いもありました。青年らは、とりあえず、指示された場所に向かうことにしました。その後は、次々と指令が入りました。「現地なので軽く確認していただいて、周りに怪しいものがいないのかも確認お願いします」、「家の中に人がいるか確認してください」、「○○駅に行くと、男が待っているから、その男を車に乗せて合流してください」、「○○で武器を購入してください」。青年らは、徐々に、自分達がこれからやろうとしている行為が空き巣レベルにはとどまらない犯罪行為であることを認識していくわけですが、やはり、金欲しさに打ち勝つことができず、引き返す選択はしませんでした。

 青年は、途中で合流した初対面の男を加えた3人で、指示どおり下調べを済ませていた被害者宅に侵入し、強盗を実行しました。青年らは、被害者宅の寝室の畳を引き剥がしたりするも、「金のインゴット」はどこにもありませんでした。「大至急離れて」との指令を受けた青年は、友人と二人でその場を離れ、東京に引き返しました。被害者から奪った数万円は、初対面の男が一人でどこかへ持ち去りました。翌日、青年は、都内でレンタカーに乗っているところを逮捕されました。約束されていた報酬はもちろん、レンタカーの調達代すら支払いがなされることはありませんでした。親族の協力を得て、多額の示談金を支払いました。そして、第1審で言い渡された刑は懲役7年。あまりにも大きすぎる代償でした。

 強盗や詐欺といった闇バイトによる犯罪は、あとを絶つことなく、多発しているのが現状です。政府は、2024年(令和6年)12月17日、犯罪対策閣僚会議を開き、緊急対策をまとめました。主な対策としては、SNS事業者に対し、問題のある募集投稿の削除を促し未然防止を図ること、雇用仲介業者に対し、事前審査の厳格化を指導すること、テレグラムやシグナル等の秘匿性の高いアプリケーションについては日本法人窓口の設置を働きかけること、防犯カメラ増設の支援、仮装身分捜査の早期実施などが掲げられています。

 しかし、このような各種対策については、問題点も指摘されています。すなわち、仲介サイトを経由した募集は数%にすぎず、大半はSNSや知人を通じた募集であるという実態があることや、秘匿性の高いアプリケーションについては、利用者のプライバシーや安全性を守るメリットもあり、そのようなサービスに国が制限をかけることは一筋縄ではいかないのではないか、といったようなものです。

また、仮装身分捜査といった新手の捜査手法の導入についても、指示役の検挙には直接結び付くものではないのではないか、といった指摘がなされていたり、一定の犯罪抑止効果は期待できるとした上でも、濫用的な権限行使の防止や他の重要な権利利益の保護の要請の観点から、その適用範囲を明確にする必要があるのではないか、といった議論もなされているところです。

 闇バイト問題への対策については、今後の社会の動向を注視していく必要があります。 

 

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