福島県
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仕事のABCとして、「A(当たり前のことを)B(バカにしないで)C(ちゃんとやる)」というスローガンを掲げることは、一見すると理にかなっているように思えます。業務を円滑に進めるには、基本的なルールやマナー(ワークルール)を守る姿勢が不可欠だからです。実際、私たち福島県労働委員会が高校生や大学生向けに行っている「ワークルール出前講座」でも、「ワークルールは基本的に“当たり前”の内容です」と説明しています。
しかし、この「当たり前」という言葉が抱える曖昧さを考えると、このスローガンは現代において再考の余地があるのではないでしょうか。
そもそも、「当たり前」という概念は個々人の経験や価値観に大きく依存するものです。例えば、上司世代にとって「出勤したらまずは挨拶をする」のは当たり前かもしれませんが、リモートワークも経験している若手社員にとっては、チャットで出社記録を残すだけで十分だと感じるかもしれません。同様に、「報連相(報告・連絡・相談)」を重視する上司に対し、若手は「必要な情報は共有ツールで伝えているので、逐一報告する必要はない」と思うかもしれません。このように、世代の違いによって「当たり前」にはズレが生じています。
また、指導の場面で「こんな当たり前のこともできないのか!」という言葉が使われると、部下からすれば、自分の価値観や知識を否定されたように感じ、パワーハラスメントと受け取られる可能性も否定できません。現代社会では、個々の価値観や多様性の尊重が求められており、過去の常識を一方的に押し付ける姿勢は時代に合わないものとなりつつあります。たとえ上司が「怒鳴られて育った」経験を持っていたとしても、それをそのまま次の世代に適用しようとするのは適切とは言えないでしょう。
今の若者には、SNSなどを通じて、自分と意見の合わない相手を即ブロックする傾向が見られます。これは、異なる価値観を受け入れることが難しくなっている一因とも考えられます。かつては異なる立場の人とも議論し、相互理解を深めることが重視されていましたが、現代では「自分にとって心地よい環境」を優先しがちです。職場でも、自分の価値観に合わないルールや指導をすぐに拒絶してしまう傾向が強まっているように感じます。
そうだとすれば、今こそ「当たり前」を再定義する必要があると思います。それぞれの職場において、個人の慣習や価値観に頼るのではなく、合理的な理由に基づいたルールとしての「当たり前」を築くため、お互いの価値観を尊重し、対話を重ねながら共通認識を持つ、より良い職場環境を目指していくことが大切なのではないでしょうか。
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