医療法人Aは、看護師を目指す学生に対して看護学校に要する学費等を貸与する奨学金制度を設けており、学生が看護学校を無事卒業してAに勤務した場合には貸与金の返済を免除し、そうでなければ貸与金全額を一括返済して貰う契約になっています。
Bは看護専門学校に合格し、この奨学金制度を利用してAの奨学生として通学し始めました。
ところが、Bは留年などを経て2年半ほどで中途退学してしまい、それまでAから貸与された奨学金合計約200万円を一括返済しなければならなくなりました。
Aの担当者はBと返済方法について話し合いましたが、Bが提案する返済計画は二転三転し、次第にBはAからの連絡に応答しなくなり、対応に困ったAの担当者が私の事務所に法律相談に訪れました。
最終的にAは私に依頼して、Bと保証人を相手方として裁判所に調停を申し立て、Bと保証人が貸与金を分割で返済する旨の調停が成立しました。
厚生労働省は、看護師の人材不足に対応するため「看護師等の人材確保の促進に関する法律」に基づき「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」を策定し、看護師の養成、復職支援、労働環境の改善などを柱に安定した人材確保を目指しています。
他方、民間の人材紹介サービスも増加しており、看護師の人材紹介会社では、採用が決まった場合、採用する医療機関側が採用した看護師の年収の20~35%程度、すなわち数十万円から百数十万円の紹介手数料を支払わなければならないケースが多いようです。
前述したAの担当者は、それまでに何人もの奨学生の援助をして来たがBのように貸与金を全額返済しなければならなくなった奨学生は初めてで、少額の分割払いで全額回収するには何年かかるのだろうかと嘆息を漏らしました。
確かに、奨学金制度には、今回のケースのように看護師確保に至らず、加えて貸与金の回収が困難となるリスクが伴います。
しかし、看護師確保のために人材紹介サービスを利用すれば、前述のとおり数十万円以上の費用がかかることと比較するならば、奨学金制度は、多少のリスクは伴うものの、採用する医療機関側と看護学校に通う学生の双方にとってメリットがある、看護師確保のための優れた制度であると考えることができます。
奨学金制度の意義をこのように評価できるということをお伝えして、Aの担当者の労をねぎらいました。
|