2015年6月定例会 一般質問 紺野長人議員
議員 | 紺野長人 |
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所属会派(質問日現在) | 民主・県民連合 |
定例会 | 平成27年6月 |
質問等 | 一般質問 |
質問日 | 6月24日(水曜日) |
12番(紺野長人君)民主・県民連合会派の紺野長人です。
それでは最初に、今日までの復興に向けた県の取り組みを踏まえ、今後の復興・再生に向けた知事の考えについてお尋ねします。
県民がそれぞれの立場で原発事故を乗り越えようと努力を積み重ねてきた結果が現在の福島県です。生活の再建、安全・安心の暮らし、産業の再生など多様な部門において道半ばとはいえども、確実に前進していることを多くの県民が実感しています。
そうした中で、県内スポーツ選手の活躍やインフラ整備などの元気な姿を前面に押し出し、県民が希望を持ち合うことは確かに重要です。しかし一方では、多くの避難者がふるさとを奪われたまま、あの狭い仮設住宅での生活を余儀なくされています。
また、廃炉の現場では、同じ人間でありながら一般市民とは別次元の高線量を安全と言われ、苛酷な労働を強いられている作業員がいます。そしてまた、事故直後の何の情報もない中で心の奥に焼きついた被曝への恐怖から抜け出せず、子供の健康を心配しながら暮らす母親がいます。政治や行政はこういった人たちを置いてきぼりにしたまま前に進むことは許されません。
そこで、これまでの復興の状況を踏まえ今後どのように取り組んでいくのか、知事の考えをお示しください。
次に、国が被災県の現状を無視してまで地方に押しつけようとしている財政方針について質問します。
政府は先日、2015年度の経済財政運営の基本指針、いわゆる「骨太の方針」の素案を示しましたが、経済と財政の一体改革による聖域なき財政再建を進めるとし、地方に対しても行財政改革を押しつけようとしています。
この骨太方針案のもとで、特別交付税や基準財政需要額の引き下げが強行されれば、教育費など県が独自に財政措置してきた事業の継続が厳しい状況に追い込まれることになります。一方で、聖域は設けないとしながらも、軍事費の伸びだけは突出しています。
世界に目を向けたとき、紛争当事国だけでなく、そこに加担する国においても、医療や福祉、教育が切り捨てられており、集団的自衛権行使に向けた軍拡の動きは日本の平和だけでなく、社会保障まで破壊してしまうことを認識しておく必要があります。
そもそも国が原発事故に対する財政面からの責任を明確にしない中で、県は原発事故と放射能汚染への対策費を別枠で予算化しなければならなかった経緯があります。それを逆手にとって、今さら国の財政再建のために国庫負担を削減するという方針は到底認められません。
骨太の方針を全ての都道府県に一律に強制するのではなく、福島県の現状を十分に考慮し、復興・再生のおくれや医療や福祉、教育や農業といった行政サービスの低下を招くことのないよう国に要請していくべきです。
そこで、県は骨太の方針案に示された経済・財政の一体改革にどのように対応していくのかお示しください。
次に、医科大学に設置されるふくしま国際医療科学センターの安定的な運営資金の確保について質問します。
原発事故による県民の健康不安などに応えるための施策は、本来は国民をだまして原発を推進してきた国の責任のもとで行うべきです。しかし、現実的な対応として、現在医科大学においてさまざまな取り組みに向けた準備が進められています。
一方、大学内部においては、これらセンター運営の経費が将来まで安定的に投入されなければ、やがては大学運営のお荷物になるのではという不安の声が聞かれています。
また、本来は県による医科大学への委託事業とし、安定的に資金確保がなされる枠組みにすべきですが、補助事業に位置づけられたことにより、将来の財政運営に安定性を欠くのではと指摘する声もあります。
さらに、政府が示した2015年度の骨太方針の素案は、安倍総理らしく新自由主義の意思を鮮明にしており、医療や福祉、そして地方を切り捨てる方向性を打ち出しています。
同じく素案では、後発医薬品、いわゆるジェネリック医薬品を使用しない患者への新たな負担まで設けて後発医薬品の使用率を現在の5割程度から8割程度に引き上げることを方針に盛り込むとしました。
製薬メーカーにとって後発医薬品の医療市場での拡大は新薬開発へのメリットを大きく損なうことになり、新しい治療薬を待ち望む難病患者や厳しい告知を受けたがん患者などにとっては希望の灯が消されることになります。
そうした中で、新薬開発への研究に公的資金を投入することは極めて大きな意義があります。また、新薬開発には優秀な研究者の確保が重要であり、そのためには早い段階で長期的かつ安定的に研究費が確保されることを関係者に明示することも必要です。
そこで、ふくしま国際医療科学センターの安定的な運営のため、国に長期的な財源確保を求めるべきと思いますが、県の考えをお示しください。
次に、東北中央自動車道の開通に向けた周辺道路の整備についてお尋ねします。
福島復興の鍵となる東北中央自動車道の開通と、これに合わせた国道115号と13号を結ぶ県道上名倉飯坂伊達線、通称フルーツラインの拡幅整備は、県北地方の観光発展や農産物の販売促進に向けて大きな期待が寄せられています。
しかし、その一方で地権者からは「工事の開始時期がはっきりしないと住居移転の計画が立てられない。果樹の生産作業をいつやめていいのか判断できない。」との訴えもあり、計画発表から実施まで年月を要する場合の丁寧な説明が求められています。
そうした中、ことし5月には(仮称)福島ジャンクションから大笹生インターチェンジ間の2016年度供用が国土交通省から発表されました。しかし、本線である上名倉飯坂伊達線には拡幅などの安全対策を必要とする箇所が見受けられます。特に上八反田橋は道幅が狭く、大型観光バスなどのすれ違いに支障を来しており、早急な対策が求められています。
そこで、県道上名倉飯坂伊達線における上八反田橋工区の整備状況と今後の見通しについてお示しください。
次に、介護保険制度の改定に伴う新しい総合事業への対応についてお尋ねします。
国はこれまで対象としてきた要支援1と2を国の介護保険制度から切り離し、2017年3月31日までには各市町村が担う包括ケアシステムに随時移行するとしています。移行期間は設けたものの、介護現場の実態を無視し地方の意見を聞くことなく決定したため、その受け皿づくりは極めて厳しい状況に置かれています。
また、NPOやボランティアも受け皿の対象としており、事業者やその職員からは質の低下は避けられないとの声も聞かれます。特に訪問介護や看護は利用者の家庭生活に深くかかわることから、教育を受けた介護職員や準公務員である民生委員と異なり、金銭トラブルや利用者のプライバシー侵害が不安視されています。
現在県内の各市町村は、限られた人的パワーを震災、原発事故からの復興に振り向けざるを得ない状況にあり、そうした中で期間内の移行に向けた体制づくりは困難をきわめています。最終的な移行日まであと1年8カ月余りと迫る中、地域の包括的なケアシステムが不十分なまま移行すれば、結果して介護を必要とする県民とその家族に犠牲を強いることになります。
本来国は憲法25条に基づき、全ての国民にひとしく福祉を提供する義務があります。しかし、県内に限ってみても、市町村の財政力や事業者の状況によって利用者へのサービスに大きな格差を生じかねない現状に置かれています。国の福祉への責任放棄によって生み出された課題だとしても、住民の生活と福祉の向上を図ることは自治体の基本的な目的であり、広域自治体として県の責任と役割は極めて重いものがあります。
そこで、県は新しい総合事業への移行に当たり、県内における市町村間の格差を生じさせないためにどのように支援するのかお示しください。
次に、国のTPP交渉を見据えた農業政策のもとで、県内農産物の海外市場に目を向けた取り組みと県内農業の発展についてお尋ねします。
国が地域や国土の保全といった農業の役割を無視し、企業の収益を重視した輸出依存型の政策をとってきた結果、稲作農家の経営は厳しいものとなっています。やむを得ず果樹やハウス野菜への転換を余儀なくされる農家も少なくなく、近い将来はこうした作物の生産過剰による価格への影響が心配されます。
そうした中、国は農林水産省設置法を改正し、地方農政局に輸出促進に関する事務を新たに明示しており、農産物の輸出への機運が高まることが期待されています。意欲ある生産者と連携し、県内農産物の海外市場への販路の回復と開拓を進めるためには、輸出に適した品目の選定や品種の開発、輸出先の農薬の使用基準などに関する取り組みを輸出規制が緩和される前の早い段階から強化する必要があります。
そこで、県は輸入規制の緩和を見据え、県産農林水産物の輸出促進にどのように取り組んでいくのかお示しください。
次に、県内農業を経営的にも魅力あるものとし、後継者不足を解消するための施策について質問します。
原発事故による県内農産物の風評被害に対する賠償金の支払いは、いずれ終期を迎えることになります。底力のある農業をどのようにつくるかは早い段階から取り組むべき県政の重要課題です。
また、農林水産省は全国に103カ所ある地域センターを廃止し、農業政策の根幹とも言うべき統計調査を外部委託にすることを決定しました。農業への国の責任が希薄になる中で、県内農業の発展に向けた県の役割はこれまで以上に大きくなっており、農業研究の充実と強化が求められています。
そこで、農産物市場のニーズに応じた新品種の開発が重要と思いますが、県の考えをお示しください。
次に、県内の農林水産業が活力にあふれる経営を展開するための販売促進のあり方について質問します。
風評対策とともに、農林水産物の市場拡大に向けては市場ニーズを的確に捉え、消費者に支持される販売対策を強化していく必要があります。
そこで、県は県産農林水産物の販路の確保にどのように取り組んでいくのかお示しください。
次に、地方公務員法の改正に伴う人事評価制度に関する県の考えについてお尋ねします。
アメリカ型の成績主義による人事管理の手法は国内企業においても1990年代に盛んに取り入れられましたが、生産性を低下させるなどの弊害が大きいことから、現在は多くの企業が取りやめています。ところが、総務省はなぜか今になって地方公務員法に人事評価制度の導入を盛り込みました。
そこで、県は人事評価制度をどのような目的で導入するのかお示しください。
最後に、人事評価制度の導入が業務遂行に与える影響について質問します。
評価制度を取りやめた企業や先行して導入した自治体からの情報は制度設計に十分に反映させ、問題点の解消が見込まれるまでは試験的な実施にとどめ、後戻りや見直しが可能にしておくことも制度管理者の責任です。
現在の福島県は職員が意識を一つにして復興・再生へと向かうことが求められています。しかし、評価制度を賃金に反映させた企業や自治体からは「競争相手である職場の同僚と情報を共有しにくくなった。」、「競争相手である後輩に仕事を教えることをためらってしまう。」といった報告も寄せられています。そこからは、県民のためではなく評価者の目ばかりを意識して仕事をせざるを得ない職員の姿しか見えてきません。
また、少しでも公平で公正な評価に近づけようとすると、詳細な目標の申告や達成度の判定といった評価のための事務量が膨大となり、復興に向けた人員不足の解消に逆行することになります。
そこで、人事評価制度の導入による業務への影響が懸念されますが、県の考えをお示しください。
以上で私の質問を終わります。ありがとうございました。
副議長(青木 稔君)執行部の答弁を求めます。
知事(内堀雅雄君)紺野議員の御質問にお答えいたします。
復興の状況と今後の取り組みについてであります。
未曽有の複合災害から5年目を迎え、大熊・双葉両町への常磐自動車道追加インターチェンジの決定を初めとするインフラの復旧・整備、ふたば未来学園高校の開校、Jヴィレッジ再生に向けた本格除染の来月からの開始など、復興の光が一層の強まりを見せております。
一方で、11万人を超える県民の皆さんが避難生活を続けられ、その長期化により心身の健康や教育、雇用など多岐にわたる課題が生じております。
また、廃炉作業従事者の労働環境の整備や帰還に向けて必要とされる医療・介護施設、商業機能等の生活関連サービスの復旧などさまざまな課題があらわれてきております。
私は、こうした複雑多様化する課題に的確に対応していくためには、職員一人一人が現場主義の意識を強く持ち、地域のさまざまな声を丁寧にお聞きしながら、必要な施策をきめ細かに展開していくことが極めて重要であると考えております。
今後とも私を先頭に全庁一丸となった現場主義の実践を通し、県民一人一人が実感ができる復興に向け全力で取り組んでまいる考えであります。
その他の御質問につきましては、関係部長等から答弁をさせます。
総務部長(藤島初男君)お答えいたします。
経済・財政一体改革につきましては、現在国において地方交付税制度の改革や歳出の効率化などが検討されており、これらの動きに対して地方6団体から国と地方の協議の場において、地域の実情を踏まえない一方的な歳出削減は行わないよう求めたところであります。
県といたしましては、引き続き国の動向を注視し、情報収集に努めるとともに、この改革によって復興・再生のおくれや県民サービスの低下が生じることのないよう、安定的かつ十分な財源の確保にしっかりと取り組んでまいる考えであります。
次に、人事評価制度の目的につきましては、地方公務員法の一部改正において、能力及び実績に基づく人事管理の徹底を図り、組織全体の士気高揚、公務能率の向上を図るものとされております。
県といたしましては、職員の能力と業績の2つの評価手法を取り入れ、職員がみずから設定した目標の達成を目指し、組織目標の実現を図ることはもとより、自己評価を行い、行動を振り返ることにより職員が自身の強みや弱みに気づき、上司との面談等を通し指導助言を受けながら、職員が主体的に能力向上を図れるよう取り組むものであります。
次に、業務への影響につきましては、平成19年度からの試行結果を踏まえ、評価による業務が過大とならないよう評価項目や様式の簡素化、評価補助者の設置などの負担軽減を図るとともに、協調性や職員の育成、指導といった協力や対人能力の視点を評価に取り入れるなどの制度の見直しを行ってまいりました。
今後も職員に対し、制度の趣旨、目的の周知を図るとともに、現在実施している試行結果を反映させたよりよい制度の構築に努めてまいる考えであります。
保健福祉部長(鈴木淳一君)お答えいたします。
ふくしま国際医療科学センターにつきましては、放射線医学に関する最先端の研究・診療拠点として、今年度内の一部竣工に向け鋭意工事を進めております。
今後は稼働後の安定的な運営が重要であることから、国に対してさらなる財政支援を要望しているところであり、さまざまな機会を捉えて財源と人材の確保に努めることにより、将来にわたる県民の健康の維持・増進を図ってまいる考えであります。
次に、新しい総合事業につきましては、多様な担い手による介護予防・生活支援サービスを提供できるよう昨年度から方部別検討会において議論を行っているところであります。
さらに、今年度は地域におけるサービスの創出やネットワーク化を担う生活支援コーディネーターを養成するとともに、市町村のモデル的な取り組みを支援する地域包括ケアシステム構築推進事業を実施し、その成果を広く情報提供するなど市町村間の格差が生じないよう支援してまいる考えであります。
農林水産部長(小野和彦君)お答えいたします。
県産農林水産物の輸出促進につきましては、生産者が実施する東南アジアなどでの販売促進活動等への支援を行うとともに、輸入規制緩和に向け、生産現場や検査体制等の視察招致などにより食の安全確保について広く情報発信してまいりました。
今年度はミラノ万博への出展のほか、新たに輸出手続等の座学研修に加え、海外に出向いて直接商談を体験するふくしま輸出塾の開講や、果物の長期保存、輸送技術の研究、さらには輸出先ごとの防除体系の確立に向けて生産者団体への支援に取り組んでまいります。
次に、新品種の開発につきましては、本県の多彩な農林水産物を代表するふくしまイレブンに位置づけられている米やアスパラガス、リンドウ、桃などの主力品目を重点に取り組んでいるところです。
その開発に当たっては、需要に適切に対応した生産振興とブランド化による高付加価値化を図るため、市場関係者や流通業者の評価、要望のほか、対話イベントやアンケート調査で得られる消費者の幅広い意見を取り入れるなど市場ニーズをタイムリーに捉え、品種開発に生かしてまいる考えであります。
次に、県産農林水産物の販路の確保につきましては、本年3月に策定した福島県農林水産物販売促進基本方針に基づき、戦略的な情報発信や選ばれる商品づくり、販路拡大等の施策を講じることといたしました。
県内外での多様なメディアによる情報発信やトップセールス、販売促進イベントに加え、今年度からは首都圏においてこれまでで最大規模となる商談会の開催、生産者団体と連携した主要な量販店や百貨店への個別訪問等を通じて取扱量の拡大や販路開拓を積極的に図ってまいる考えであります。
土木部長(大河原聡君)お答えいたします。
県道上名倉飯坂伊達線につきましては、上八反田橋を含む全長約200メートルの区間において大型車のすれ違いに支障を来しているため、平成25年度から事業に着手し、橋梁のかけかえや道幅を広げるための設計を進めております。
今後は用地調査等を進め、地元への丁寧な説明を行い、速やかな用地取得に努めるなど早期整備に取り組んでまいります。